滑らない話には型がある!コメディアンから学ぶ構成力の秘密
会議での発表、商談中の雑談、友人との会話、自己紹介の場面…。「面白い話ができたらな」と感じた経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
テレビで見るコメディアンたちは、なぜあんなにも巧みに人を惹きつけ、笑いを誘うことができるのでしょう。彼らの話には、特別な才能だけではない、明確な「型」と「技術」が存在します。
「人志松本のすべらない話」という人気番組があります。 この番組のコンセプトは、「誰でも“すべらない話”を持っている。それは、誰が何度聞いても面白い」というものです。 そう、面白い話は一部の特別な人のものではなく、作り方のコツさえ知れば誰でもできるようになるのです。
この記事では、コメディアンたちが無意識的、あるいは意識的に使っている話の構成力、その秘密の「型」を徹底解剖します。あなたもこの構成術を学ぶことで、プレゼンや自己紹介、日常会話で「滑らない」どころか「もっと聞きたい」と思われる話し方を手に入れることができるでしょう。
Contents
なぜあなたの話は「滑る」のか?多くの人が陥る3つの罠
面白い話の作り方を学ぶ前に、まずは多くの人がなぜ「話が滑ってしまう」のか、その原因を知る必要があります。あなたも無意識にこんな罠に陥っていませんか?
罠1:話のゴール(オチ)が決まっていない
話が長々と続き、「で、結局何が言いたいの?」と相手に思わせてしまうパターンです。
これは、話の着地点、つまり「オチ」を決めずに話し始めてしまうことが最大の原因です。ゴールが見えないままマラソンを走るようなもので、話している本人も途中で何を伝えたいのか分からなくなり、聞き手はさらに混乱してしまいます。
コメディアンや落語家は、必ず話の着地点である「オチ(サゲ)」から逆算して話全体を組み立てます。 まずは「何を一番伝えたいのか」というゴールを明確にすることが、滑らない話の第一歩です。
罠2:自分だけが楽しい内輪ネタになっている
特定の仲間内でしか通用しない固有名詞や専門用語、共通の経験を前提とした話は、聞き手を置き去りにします。
例えば、社内の専門用語や、一部の友人しか知らないあだ名などを多用すると、聞き手は話の状況をイメージできず、興味を失ってしまいます。
話す相手は、あなたが話す内容の背景知識を全く持っていない、という前提に立つことが重要です。誰が聞いても状況が理解できるよう、丁寧な説明を心がけましょう。
罠3:専門用語や固有名詞が多すぎる
話の時系列がバラバラで、あちこちに飛んでしまうと、聞き手は話の文脈を追うのに疲れてしまいます。
「そういえば、その前にこんなことがあって…」「あ、言い忘れたけど…」といった具合に話が前後すると、聞き手の頭の中は疑問符でいっぱいになります。
話は基本的に時系列に沿って進めるのが鉄則です。聞き手がスムーズに物語を追体験できるよう、整理された構成を意識しましょう。
これが基本!滑らない話の黄金律「PREP法」
コメディアンの高度な技術を学ぶ前に、まずは最も基本的で汎用性の高い話のフレームワーク「PREP法」をマスターしましょう。これは、ビジネスシーンでの報告やプレゼンでも絶大な効果を発揮する黄金律です。
PREP法とは?ビジネスシーンでも使える万能フレームワーク
PREP法とは、以下の4つの要素の頭文字を取ったもので、この順番で話を構成する手法です。
- P = Point(結論):まず、話の要点・結論を最初に伝えます。
- R = Reason(理由):次に、なぜその結論に至ったのか、理由を説明します。
- E = Example(具体例):そして、理由を裏付ける具体的なエピソードやデータを提示します。
- P = Point(結論の再確認):最後に、もう一度結論を述べて話を締めくくります。
この構成の最大のメリットは、最初に結論を伝えることで、聞き手が話の全体像を把握しやすくなる点です。 また、理由と具体例がセットになっているため、話に説得力が生まれます。
PREP法を会話で使う具体例
【お題】おすすめの趣味について話す
- P(結論):「最近、私が一番ハマっている趣味はソロキャンプなんです。」
- R(理由):「なぜかというと、日常の喧騒から離れて、完全に自分一人の時間を持てるからです。頭がスッキリして、最高のリフレッシュになるんですよ。」
- E(具体例):「先週末も行ってきたんですけど、誰にも邪魔されずに焚き火の炎をただぼーっと眺めて、お気に入りのコーヒーを淹れて飲む時間は、本当に贅沢でした。夜は満点の星空の下で、普段考えもしないようなことをゆっくり考えたりして。」
- P(結論):「なので、もし心身ともにリフレッシュしたいなら、ソロキャンプは本当におすすめですよ。」
このように、PREP法を意識するだけで、話が驚くほど分かりやすく、説得力を持つようになります。 日頃からこの型を意識して話す練習をすることで、論理的に考える習慣も身につきます。
コメディアンの神髄!人を惹きつける話の「3部構成」
PREP法が論理的で分かりやすい「説明」の型だとしたら、これから紹介する「3部構成」は、聞き手の感情を揺さぶり、物語に引き込むための「話芸」の型です。これはコメディアンや落語家が使う話術の核心であり、「フリ・展開・オチ」という流れで構成されます。
落語にも通じる「マクラ・本題・サゲ」の構造
この3部構成は、日本の伝統話芸である落語の構造「マクラ・本題・サゲ」と非常によく似ています。
- マクラ(導入):本題に入る前の肩慣らし。世間話や本題に関連する小話で、観客の心を掴み、話の世界観に引き込みます。これが「フリ」に相当します。
- 本題(展開):物語の中心部分。登場人物のやり取りや出来事が展開され、話がクライマックスに向かって盛り上がっていきます。
- サゲ(結び):物語の締めくくり。いわゆる「オチ」のことで、全ての伏線を回収し、観客をスッキリさせます。
この普遍的な物語の型は、聞き手が最も自然に話に入り込み、楽しめる構造なのです。
第1部「フリ」:期待感を高める状況設定
「フリ」とは、後の「オチ」を最大限に活かすための布石です。 ここでの状況設定が具体的で、聞き手の共感を呼ぶほど、オチの面白さは倍増します。
聞き手の共感を呼ぶ「あるある」を仕込む
「フリ」の段階で、「ああ、それ分かる!」「よくあるよね」といった共感ポイント(あるあるネタ)を盛り込むと、聞き手は一気に話に引き込まれます。
例: 「電車で席が空いて座ろうとしたら、隣のおじさんが足を大きく広げていて、ものすごく座りにくい時ってありますよね。この間、まさにそんな状況だったんですけど…」
このように、日常の誰もが経験するような「あるある」から話を始めることで、聞き手は「自分ごと」として話を聞き始め、この後の展開への期待感を高めます。
映像が目に浮かぶような具体的な描写
状況をただ説明するのではなく、五感に訴える具体的な描写を加えることで、聞き手の頭の中に鮮明な映像を浮かび上がらせることができます。
悪い例: 「この前、変な服装の人がいました。」
良い例: 「この前、真夏日なのに全身真っ黒の革ジャンを着て、なぜかスキー用のゴーグルをかけた人がいたんですよ。歩くたびにジャラジャラと鎖の音がして…」
良い例のように、情景を細かく描写することで、聞き手はその場の雰囲気や登場人物のキャラクターをリアルに想像し、物語の世界に没入していきます。
第2部「展開」:緊張と緩和を生み出す
「フリ」で設定した状況を、予想外の方向に進めていくのが「展開」の役割です。ここでは、聞き手の予測を裏切り、「この後どうなるんだろう?」というハラハラ・ドキドキ感を演出します。
意外な展開で聞き手を引き込む
物語が平凡に進んでしまっては、聞き手は飽きてしまいます。 「フリ」で設定した日常的な風景に、非日常的な出来事や予想外の出来事を投入することで、話に緩急が生まれます。
例: 「(足を広げたおじさんの隣に座った話の続き)仕方なく体の半分くらいしか座れずに窮屈な思いをしていたら、そのおじさんが突然、僕の方を向いて小さな声でこう言ったんです。『…助けてくれ』って。」
このような意外な展開は、聞き手の心に「?」を浮かばせ、話の続きに強く惹きつけるフックとなります。
クライマックスに向けた焦らしのテクニック
オチをすぐに明かすのではなく、少し「焦らす」ことで、クライマックスへの期待感を最大限に高めることができます。 これは、一度話を本筋から少しだけ逸らしたり、関係のない描写を挟んだりすることで生まれます。
例: 「『助けてくれ』って言われた僕は、もうパニックですよ。え、何?事件?って。おじさんの顔を見たら、滝のように汗をかいていて。その時、車内アナウンスが『次は、渋谷〜、渋谷〜』ってのんきに流れてて…」
このように、核心に触れる手前で少しだけ足踏みをすることで、聞き手の「早く続きが知りたい!」という気持ちを増幅させることができます。
第3部「オチ」:全ての伏線を回収するカタルシス
「オチ」は、単なる話の終わりではありません。「フリ」と「展開」で積み上げてきた全ての要素を回収し、聞き手に「なるほど!」「そうだったのか!」という納得感と笑い、そして感動を与える、物語のクライマックスです。
「フリ」と「オチ」のギャップで笑いを生む
笑いの多くは、「常識」や「予想」と「現実」の間に生まれるギャップから発生します。 「フリ」の段階で聞き手に「こうなるだろう」という常識的な予測をさせ、それを「オチ」で鮮やかに裏切ることで、大きな笑いが生まれます。
例: 「(助けを求めてきたおじさんの話の続き)僕が固まっていると、おじさんはもう一度、か細い声で言いました。『ズボンの…チャックが…上がらないんだ』って。見たら、全開でした。」
「シリアスな事件かもしれない」というフリ(緊張)と、「ただチャックが上がらないだけだった」というマヌケなオチ(緩和)。この大きな落差が、笑いを生み出すのです。
誰も傷つけない「失敗談」や「自虐ネタ」は鉄板
人を傷つける笑いは、聞き手を不快にさせてしまいます。その点、自分の失敗談や恥ずかしいエピソードといった「自虐ネタ」は、誰も傷つけることのない安全な笑いです。 話し手が自分をさらけ出すことで、聞き手は親近感を覚え、安心して笑うことができます。
実践!滑らない話を作るための5ステップ
理論を学んだら、次は実践です。ここからは、実際にあなた自身の「滑らない話」を作るための具体的な手順を5つのステップで解説します。
ステップ1:ネタを探す(感情が動いた瞬間をメモする)
面白い話のネタは、特別な出来事である必要はありません。日常の中にこそ、ネタの原石は転がっています。 大切なのは、あなたの「感情が動いた瞬間」を見逃さないことです。
- イラっとしたこと
- 恥ずかしかったこと
- 爆笑したこと
- 感動したこと
- 焦ったこと
これらの感情が動いた出来事を、スマートフォンや手帳にメモする習慣をつけましょう。 その時どう感じたかという「感情」も一緒に記録しておくのがポイントです。
ステップ2:話の「オチ(ゴール)」を決める
集めたネタの中から話したいものを選んだら、まず最初に「この話で一番伝えたいことは何か」「聞き手にどう感じてほしいか」というゴール、つまり「オチ」を決めます。オチが決まることで、そこから逆算して話の構成を考えることができます。
ステップ3:3部構成に当てはめてプロットを作る
決めたオチを最も効果的に伝えるために、「フリ・展開・オチ」の3部構成に沿って、話の簡単なプロット(筋書き)を作成します。
- フリ:いつ、どこで、誰が、何をした?聞き手が共感できるポイントは?
- 展開:どんな意外なことが起こった?
- オチ:最終的にどうなった?フリとのギャップは?
この段階では、キーワードを書き出すだけでも構いません。全体の流れを可視化することが目的です。
ステップ4:声に出して話してみる
プロットができたら、実際に声に出して話してみましょう。文章で読むのと、声に出して話すのとでは、リズムやテンポが全く異なります。話してみて、言葉に詰まる部分や、説明が足りない部分、逆に冗長な部分などを修正していきます。
ステップ5:短い話から実践し、フィードバックをもらう
最初から長話をしようとする必要はありません。まずは1分程度で終わる短いエピソードトークから始めてみましょう。家族や気心の知れた友人に聞いてもらい、「分かりやすかったか」「面白かったか」といったフィードバックをもらうのが上達への近道です。
さらに話を面白くする!プロが使う7つのスパイス
基本の構成をマスターしたら、次はあなたの話をさらに魅力的にするための「スパイス」を加えていきましょう。これらはコメディアンや話のプロが巧みに使う表現テクニックです。
スパイス1:擬音語・擬態語で臨場感を出す
「ドアが開いた」と言うよりも、「ギィィ…とドアが開いた」と言う方が、情景が目に浮かびます。「ドキドキ」「ザーザー」「ツルツル」といった擬音語・擬態語は、話にリズムと臨場感を与え、聞き手を物語の世界に引き込みます。
スパイス2:効果的な「間」で期待感を煽る
面白い話が上手い人は、例外なく「間」の使い方が絶妙です。 オチを言う直前に一瞬だけ黙る、重要な言葉の前に一拍置くなど、意識的に「間」を作ることで、聞き手の注意を引きつけ、次の言葉への期待感を高めることができます。
スパイス3:声のトーン・大小・スピードで緩焦をつける
一本調子の話し方は、聞き手を眠くさせてしまいます。 重要な部分はゆっくりと大きな声で、焦っている場面は早口で、ヒソヒソ話は小さな声で、というように、話の内容に合わせて声のトーンやスピードに変化をつけましょう。 これだけで、話は格段に生き生きとします。
スパイス4:聞き手を巻き込む「質問」を投げかける
「皆さんならこんな時どうしますか?」というように、時折聞き手に質問を投げかけることで、一方的な話ではなく、双方向のコミュニケーションが生まれます。 聞き手は自分も物語に参加しているような感覚になり、集中力を維持しやすくなります。
スパイス5:身振り手振りを加えて視覚に訴える
言葉だけでなく、身振り手振りを加えることで、話の内容を視覚的に補強することができます。 大きさを手で示したり、登場人物の動きを真似したりすることで、話の説得力とエンターテインメント性が向上します。
スパイス6:自分を主語(一人称)にして語る
「ある人がこんな経験をしたそうです」という伝聞の形よりも、「私が実際に体験したんですけど」と一人称で語る方が、話にリアリティと熱がこもります。聞き手も話し手の個人的な体験として、より興味を持って耳を傾けてくれます。
スパイス7:聞き手がイメージしやすい比喩表現を使う
難解な事柄や感情を説明する際に、「まるで〜のようだ」といった比喩表現を用いると、聞き手は直感的に内容を理解しやすくなります。優れた比喩は、聞き手の記憶に深く刻まれます。
目的別・シーン別「滑らない話」の応用術
これまで学んだ「型」と「スパイス」は、様々なコミュニケーションシーンで応用可能です。
自己紹介:ギャップネタで一気に心を掴む
初対面の場で自分を印象付けたい自己紹介では、「見た目とのギャップ」を話の軸にするのが効果的です。
例: 「見た目はインドア派に見られがちですが、実は週末は毎週山に登っています。この間も熊と遭遇しかけまして…」
意外性を提示することで、相手に強い興味を抱かせ、その後の会話のきっかけを作ることができます。
プレゼンテーション:冒頭の掴みで聴衆を惹きつける
プレゼンの冒頭で、テーマに関連する短い「すべらない話」を披露することで、聴衆の心を一気に掴むことができます。 難しい本題に入る前に、失敗談などで場を和ませることで、聴衆はリラックスして話を聞く態勢を整えることができます。
雑談:短いエピソードトークで場を和ませる
商談や飲み会の席での雑談では、1〜2分で話せる短いエピソードトークが重宝します。ステップ1で集めた日常の「小ネタ」を、3部構成に当てはめて話す練習をしておけば、どんな場面でも会話に困ることはなくなるでしょう。
まとめ:面白い話は「才能」ではなく「技術」である
コメディアンの話術は、一部の天才だけが持つ魔法ではありません。それは、聞き手の心理を深く理解し、計算され尽くした「型」と、それを彩る「技術」の集合体です。
今回ご紹介した「PREP法」や「3部構成」、そして話を豊かにする「スパイス」は、練習すれば誰でも身につけることができる強力な武器です。
まずは日常の小さな出来事を面白く話すことから始めてみてください。一つでも「滑らない話」が生まれ、相手の笑顔を見ることができれば、それは大きな自信に繋がるはずです。話すことが苦手だったあなたも、きっと話すことが楽しくて仕方なくなるでしょう。
最終更新日 2025年12月4日 by alaala